【005】氷炎のカルファード

氷炎のカルファード

話は山中に戻る。暗闇に潜む傷だらけの男は静かに時が過ぎるのを待っていた。

男は別に死を恐れてはいない。だからと言って死に急ぐ理由も無い。

追っ手達に見つかれば動かない身体で敵の一人ぐらいは道連れにしてやろう。

しかし、もし見つからなければ自分の幸運に感謝し、このまま仲間と合流をしよう。それぐらいの軽い気持ちである。

三人組の一人がアジトから呼んできた仲間は五人。

傷だらけの男がどれ程の剣の力量かは分からないが、動くのもままならない今の状態で発見されることは、そのまま死を意味しているだろう・・・

時が刻々と過ぎてゆく。身を隠している男には、いったいどれだけの時間が流れたのか分かりはしなかった。

ほんの十分かそこらのようにも思えるし、それこそ二時間も三時間も経ったようにも思えた。

その時!!

「いたぞ!!カルファードだっっ!!」

無情にも動くこともままならない傷だらけの男は敵に発見されてしまった!!

カルファードと呼ばれた狼の様な男は特に焦るでも無く、ゆるりと立ち上がると剣を構えた。

周りを取り囲む男達は八人。敵は察するに海の髑髏か海鼠の者達だろう。

囲む男達は、ジェニー・ファミリーのナンバー2、あのカルファードを倒したとなると名の上がる事は間違い無しである。皆かなりいろめきたってはいるが、今一歩飛び込んで行く者はいない。

刹那!!

ビュンッ!!

「うがっー!!」

カルファードの左手が動いたかと思うと、次の瞬間、男達の一人から絶叫が起こった!

「なっ!!」

剣を振るったわけではない!!

ダガー(短剣)だ!!

カルファードの放ったダガーが敵の喉に突き刺さったのだ!!

仲間の一人がいきなり絶叫と共に倒れたのである。これに男達が驚かない訳がない。しかしカルファードはその一瞬の隙も見逃さなかった!!

シュッ!!

「うがーっっ!!」

喉を押さえて転げ回る仲間へと目を移した、もう一人の敵へカルファードの振るう剣が一閃!!

その刃の餌食とした!!

「くそっ!!」

男達の一人がはじめて攻撃に転じる!!

「うおーっ!!」

敵の一人がカルファードの胸を狙った一撃を繰り出す!!

カッキーンッ!!

あまり見事とは言えないその一撃をカルファードは軽く払うという動作だけで弾いたがその時!!

「くっっ!!」

傷の痛みでカルファードは大きくバランスを崩した!そして次の一撃が容赦無く男達の一人から繰り出される!!

カルファードは、それをからくも身を捻って交わしたが!?

カルファードの隙だらけとなった肩へと更なる一撃が襲ってきた!!

「うぎゃーっっ!!」

誰もが驚愕を受けた。今の悲鳴はカルファードの口から発せられたものでは無い!

逆に今にもカルファードを倒し、名を上げる筈の男が上げた悲鳴だった!!

いったい何が起こったのか!?

その状況に少なからずカルファードも驚きはしたが、この場の誰よりも早く冷静さを取り戻し、もう次の攻撃に移っていた!!

グッシュ!!

「ぐっうっ!!」

カルファードがふらふらの身体で三人目の男を血祭りにあげた!!

この時には八人いた男達のうちで生き残っているのはたったの二人となっていた!?

「!?」

カルファードがこの不可解な現象の理由を突き止めようと辺りに気を配っていると何かが動く!!

生きているのか?

「うぐ!!」

また敵の一人が派手な血しぶきと共に倒れる!!

何も理由の分からないまま、最初八人いた男達は今やたった一人になってしまった・・・

あまりの恐怖に、残る最後の一人となった男は言葉にならない悲鳴をあげると一目散に逃げ出した。

カルファードは剣を構え直すと油断無く辺りに神経を配る。

結果的にはその何かに助けられる形とはなったが、だからといってそれが味方とは限らない。

大変な怪我で頭が朦朧とする中、カルファードは必死に相手の気配を探ろうと精神を集中させていた。

「!?」

カルファードは背後に人の気配を感じる!!

いかに怪我をしていようとも相手に後ろを取られるという失態を演じたことは、カルファードにとって記憶に無いことである。

胸に広がる屈辱感を振り払うかのように、カルファードが振り向きざまの一撃を見えない敵に放った!!

見えない敵はそれを軽いバックステップで交わすと、なんと笑い始めるではないか!?

「!?」

カルファードはその笑い声と暗がりに見えるシルエットで、その相手の正体が分かった。

それはカルファードにとって誰よりも心強い人物だったのだ。

カルファードは安心の為かそれとも、とうに限界を越えていたのかそのまま気を失ってしまった・・・

その頃、ジェニー・ファミリーのアジトで、銀髪の知恵者シェルスターは憔悴しきっていた。

今まで幾度と無く危機に直面した事も、命を危険に晒(サラ)した事もある。

どんな時でもどんな窮地でもジェニーとカルファードと、多くの仲間達とでそれを打ち破ってきたつもりだった・・・

でも今回は頭となるジェニーがいない。抑えとなるカルファードもいない。

シェルスターはジェニーという精神的支えを失い、ひしひしと自分の無力さを感じていた。

シェルスターは仲間に言う。

「とりあえず、ジェニーの行方を突き止めないと話にならない。ジェニーはいったい何をしているんだ?」

それはここにいる誰もが思うことだった!

ここはジェニー・ファミリーに何かあった場合に集合するようにと決められた秘密の隠れ家である。

ジェニー・ファミリーに隠れ家はいくつか有るが、海の髑髏達に襲われた場所から近いのはココだけだった。

あの襲撃からはもう一ヶ月以上が経とうとしている。

ジェニーも何事も無ければ、もうこのアジトに到着していてもおかしくない・・・

誰もがそう思いながらも、あえて目を逸らさずにはいられなかった事実、認めたくない一つの可能性を口にしたのはシェルスターであった。

「・・・ジェニーは・・生きているんだろうか?」

空気が一瞬にして凍りつくのが分かった。それは誰もが思っている疑問だったのだ!!

あえて誰もシェルスターの疑問に反論しようとはしなかった。

誰も反論するだけの材料を持ち合わせていなかったからだ。

シェルスターはまるで周りを納得させる為ではなく、自分を納得させる為のように言い始める。

「私は見たんだ。ジェニーの右肩に深々と敵の放った矢が突き刺さり、ジェニーが海へと放り出されるのを・・・」

それについてはここにいる数人が目撃していた。

「あれが致命傷になるとまでは思えないが、あの傷で海を渡って生き延びているとは・・・さすがに私も考えづらい・・・」

「・・・」

「・・・」

シェルスターは一つ大きく溜め息をつくと気持ちを切り替えた。

今、自分達に必要なのは論じ合うことでは無い。これからどうするかを考える事である。

「ジェニーが生存しているかどうかは後にしましょう」

シェルスターは仲間に言う。

「・・・」

「先程のこれから取るべき行動の続きですが、私達がまずやるべきことは一つです。」

「・・・」

「それは・・・」

ガンッッッ!!!

突然、小屋の扉が開いた!!

「報復だ!!!!」

誰もが意表をつかれる!!小屋の扉を誰かが蹴破ったかと思うと、嬉しそうな声でシェルスターの言葉の続きを叫んだのである!!

そしてその頃エランツォ家では、エランツォが心配そうな顔でリュシアンの帰りを待っている。

「エランツォ、何をそんなに心配しているんだ?リュシアンだって子供じゃない、朝には戻ってくるよ」

アルバートは眠たい目を擦りながら、めんどくさそうに言った。

「別に私だってリュシアン君が普通の身体ならなんの心配もしないけど、あの子は傷が癒えてまだ間もない身なのよ」

アルバートはエランツォの心配そうな顔を複雑な気持ちで眺めながら言った。

「・・・うーん、俺から見て全然普通とかわり無いように見えたがな」

「アルバートは知らないからそんなこと言えるのよ。リュシアン君が傷だらけで海岸にうちあげられた時には、それはもうひどい怪我だったのよ」

「・・・」

エランツォはその時の事を思い出しながら言う。

「特に右肩の矢でうたれた傷はひどかったわ。もう今にも右肩がちぎれてしまうんじゃないかと思ってしまう程だったもの・・・」


下記は私が他のブログで書いた記事です。旅行が好きで興味のある方はぜひ読んでみてください。

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