【004】追われる男

追われる男

深い森の奥から荒い息づかいが聞こえてくる。

こんな時間に目を覚ましているのは夜行性の動物か、はたまた何事か良くないことを職業としている輩ぐらいであろうと思われる深夜にソレは動いていた!!

森の中、全身傷だらけのソレは荒い息づかいで、そして力強い意志でどこかを目指しているようである。

よく見るとソレは狼を思わせるような鋭い眼光を持った、かなりの美貌の男だ。

身体の方も無駄な贅肉ひとつ無い素晴らしいもののようだが、しかし今はズタボロの衣服に傷だらけの身体と、その価値は無残なものとなっていた・・・

その類い稀なる美貌を持った傷だらけの男は何かを気にしている様である。どうも、この傷だらけの男は何かに追われているようだ。

すると男が走って来た方角からうっすらと明かりが三つ近づいてきた!!

それは手に明かりを持ったガラの悪そうな三人組の男だった。

その三人の男達は片手に松明を、もう片方の手には剣をたずさえて、傷だらけの男が来た道をものすごい勢いで走って来る!!

傷だらけの男は、追ってきた男達との距離が決定的に縮まる前に草むらへと身を潜めた・・・

「絶対に奴がカルファードだ!ジェニー・ファミリーのナンバー2、氷炎のカルファードに間違いない!!」

三人組の一人が知能の低そうな声で怒鳴る。

「まだこの辺りにいるはずだ!絶対に探し出して仕留めてやる!!」

あの無敵の海賊ジェニー・ファミリーのナンバー2!あまりの大物に三人の男の鼻息は荒い。

「どうする!?相手は手負いだ。ここで別れて別々に捜すか?」

そう、手負い・・・美貌の男は全身傷だらけである。

「・・・」

しかし、いかに手負いと言えどもジェニー・ファミリーのナンバー2は恐ろしいらしい。

とりあえず三人のうち一人はアジトに応援を呼びに行き、残りの二人は一緒にこの辺りを探索するということで話は落ち着いた。

草むらからこの光景を眺めていた傷だらけの男は、ろくに身動きも出来ない体で、茂みの中に息を殺し隠れていた。

三人組の男のアジトがここからどれほどの距離かは知らないがボロボロの男が三人組、もしくはその仲間達に見つかってしまうのは時間の問題のように思えた・・・

まさにその命が風前の灯火となってしまった傷だらけの男。

その男が目指す場所はキャプテン・ジェニー率いるジェニー・ファミリーの緊急時の隠れ家である。ジェニー・ファミリーに何かがあった時に集合するよう事前に決められていた場所だ。

傷だらけの男が追い詰められている時、そのアジトではこんな会話がなされていた。

「残党狩り?」

「そう。どうも海の髑髏達が俺たちジェニー・ファミリーの生き残りを執拗に探し出しては血祭りにあげているらしいんだ」

「くっ!卑怯な!!」

海軍一の山男

このジェニー・ファミリーの隠れ家は、傷だらけの男が身を潜めている場所からそう遠くは無い山中にあった。

小屋の中には全部で十三人の男と一人の女性がいる。

みんな屈強な若い男ばかりだが、中には女性のような顔立ちのこの場の雰囲気にはちょっとそぐわない男性と、もう六十歳を越えているのでは?と思える大きな体躯の老人もいた。

「とりあえず、これからどうする?シェルスター」

シェルスターと呼ばれたのは、先程の女性のような顔立ちをした男である。

シェルスターは男性であるにも関わらず腰まではあろうかという長髪で、その髪はそれは見事な銀髪であった。これで海の男?それも歴戦の強者(ツワモノ)揃いで知られるジェニー・ファミリーの一員が務まるのか?と思えるような優男だ。

しかし彼が若くしてジェニー・ファミリーの智恵袋、そしてジェニー・ファミリー1の常識人と称えられるシェルスターその人であった。

「やることはとりあえず二つですね。まずジェニーやその他の仲間の行方を探す事。後は船の確保です」

シェルスターは別に多くを語るでも無く、当たり前の事を当たり前のように言う。

その頃エランツォ家では、ちょっとした騒ぎが起こっていた。

「アルバート、起きて。大変なの。リュシアン君がいないのよ。ちょっと、起きなさい!」

アルバートはエランツォ家でリュシアンの作った夕食をたらふく食べた後、嫌がるリュシアンに無理やり酒を付き合わせて、そのままエランツォ家で寝てしまうという失態を演じていた。

アルバートにとってはいつもの事なので、本人は何も感じていないようだが・・・

「・・・?へ?えーと・・・えっ??」

お酒に酔って、ここはどこだ?自宅ではないぞと、いまいち自分の置かれている状況が把握しきれないでいるアルバートの顔面に、目覚めの鉄拳を食らわせようとエランツォが拳を握りしめたところで、彼は正気を取り戻した。

「リュシアンがいない?なんで?」

アルバートは頭をボリボリかきながら、のんびりとした口調で聞く。

「いや、それが分からないのよ。物音に目が覚めて行ってみるとリュシアン君の布団が空っぽなの」

エランツォが本気で心配していると、何を思ったかアルバートがいきなり目をウルウルさせた。そして(アルバート自身にとっては)可愛いらしい(と思える)仕草で言う。

「うーん。ボクぅ、あまりに星が綺麗だから、ついふらふらっと外に出ちゃいました。心配させてゴメンね。」

「はうっ!?」

アルバートの思いもよらない行動にエランツォが息を飲む。

「おねえさん。テヘッ、コツン・・とかそんなんじゃないのか?」

と三十五歳の男は、おそらくリュシアンの真似であろう事をした。

最後のコツンは自分で自分の頭を可愛らしく(あくまでもアルバート自身がそう思っているというだけだが・・・)叩いた擬音だ。

アルバートの名誉の為に言うなら、彼は決して不細工では無い。

しかしアルバートの見た目はダイワーク帝国では「ダイワーク海軍一の山男」という二つ名がつくような風体である。

ある意味、外見で言うならリュシアンとは対極に位置する男だ。

そのアルバートのリュシアンの真似のおぞましさと言ったら並大抵では無かった・・・

エランツォは本気の鉄拳を、アルバートの顔面に喰らわせてやろうかと思った程である。


下記は私が他のブログで書いた記事です。旅行が好きで興味のある方はぜひ読んでみてください。

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