【003】アルバート対リュシアン

化けの皮

シンシアとルチアがとんでも無い会話で盛り上がっている時、とうの本人である黒髪の少年は無邪気にケーキを焼いていた。食後のデザートで食べるつもりである。

それを見て驚いたのはダイワーク第五艦隊アルバートだ。

「キャプテン・ジェニー壊滅事件」の夜に全身傷だらけで海岸に倒れていて、「僕は海賊の海鼠に捕まっていて逃げてきました」だぁ!?

そんな都合のいい話に誰が騙されるか!?俺が化けの皮をひん剥いてやる!!とばかりに勢い込んで、エランツォ家に乗り込んで来てみれば・・・

華奢で女の子みたいな少年が(本当に女の子では無いのか?)フリフリのエプロン姿でケーキを焼いているではないか!

何だこれは!?

ケーキ作りに没頭していたリュシアンだったが、エランツォが帰って来た事に気付くと、ご主人様が帰ってきた時の飼い犬でもこうはいかないだろうと思えるくらい嬉しそうに駆け寄ってきた。

人間なので生(ハ)えてはいないが、もし尻尾がはえていたら、これ以上無いほどに振っているだろうと想像出来る。

「おねえさん、お帰りなさい!」

「リュシアン君、ただいま。えーと、こちらはアルバート中将よ」

均整のとれたスタイルのエランツォの横に、アルバートの巨体が立っている。

リュシアンはちょっとびっくりした顔で山のような男アルバートを見上げた。

そして「はじめましてアルバート中将、リュシアンです」と、いかにも海の男がやりそうな仕草でアルバートに挨拶をする。

「アルバートだ。よろしく、リュシアン」

「こちらこそよろしくです」

「・・・」

「?」

海の荒くれ者、海賊・・・想像とは愕然に違うリュシアンの見た目にアルバートは言葉を失う。

「僕、お茶をいれてきますね」

リュシアンがお茶をいれるために奥へ引っ込むとアルバートは体中の空気よ抜けよ、とばかりに大きなため息をついた。

「ふっー。」

「・・・」

「・・・」

エランツォとアルバートの二人の間に沈黙が流れる。

「アレは無いな ・・・ 」

最初に沈黙を破ったのはアルバートだった。それに応えてエランツォが言う。

「皆まで言うな。アルバート ・・・ 」

「なあエランツォ。ジェニー・ファミリーっていうのは、こう言っちゃなんだがとんでもない集団なんだぜ」

アルバートが勘弁してくれとばかりに言う。

「普通、海賊なんてのはただの荒くれ者の集まりだ。だがジェニー・ファミリーは違う。一人一人が高い能力の持ち主で訓練も行き届いている。少数精鋭なんだ。だからこそ海賊や軍船を狙った海賊行為が出来る」

「・・・」

「キャプテン・ジェニー本人のその無敵の強さもそうだが手下だってその強さは並じゃ無い。あんなフリフリのエプロンつけてケーキ焼いてる女の子みたいなのがキャプテン・ジェニーの一味な訳ないよ」

アルバートは苦い顔だ。

「分かってるわよ。私だって、あの子が海賊の一味だなんて思えないもの」

エランツォは、授業で自信満々に答えた解答が間違いだった時の生徒のように恥ずかしそうな表情で言った。

「じゃあ、いったいいつまであのお嬢ちゃんをこの家に置いておくつもりだ?もう必要ないだろう?ん~?」

念のため言うが、お嬢ちゃんではない。

「そりゃそうだけど、リュシアン君が行くところが無いって言うし、まあなんとなく ・・・ 」

それを聞くとアルバートは複雑な表情で、さも聞き辛そうにこんな事を聞いた。

「その~ ・・・ あの子はいったいいくつなんだ?歳は?」

「?」

アルバートの質問の意味が読み取れず、訝(イブカ)しげな表情でエランツォが答える。

「十七歳って言ってたけど、それがどうかしたの?」

エランツォの答えを聞いて、アルバートは本気の口調で言う。

「う~ん、あの子はあの美貌だし、もしかしてお前があの子を囲おうとおも ・・・ 」

ドッグゥッ!!!

「うっぐっ!」

顔面を真正面から拳骨で殴られて、さすがのアルバートもこれには呻いた。

そこにリュシアンがお茶の準備が整ったと言いに戻って来る。美貌の少年は、ちょっとの隙にいきなり鼻血を噴いているアルバートに、少なからずびっくりしたようだが、あえて面(オモテ)には出さず、お茶と夕食の準備が整ったことを告げた。  

化けの皮

「ほ~う。するとリュシアンが乗っていた船は海賊の海鼠に襲われて、捕えられた君はず~っと奴隷としてコキ使われていたわけか。そりゃ大変だったな」

誰も誘った訳では無いが、それがさも当たり前のように一緒に飯を食べているアルバートだった。

リュシアンの話に、アルバートは同情的にそう言うと、「これからどうするのか?」と尋ねる。

アルバートのこの問いかけには別に深い意味は無かったのだが、リュシアンは何かに困った子供が親に救いを求めるようにエランツォを見た。

リュシアンに見つめられたエランツォは、まるで捨てられた子猫を拾うような面持ちで言う。

「リュシアン君に行くところが無いなら、いつまででもここに居ていいのよ」

「はいっ!ありがとうございます。おねえさん」

「やっぱり囲うつもりだな?エラン・・・」

ドスッ!!!

エランツォの鉄拳を食らい口から血を流しながら、何事も無かったかのようにアルバートは続ける。

「ところでリュシアン。『キャプテン・ジェニー壊滅事件』の時、君は現場に居たんだね?」

「はい」

リュシアンは思い出したく無いかの様に青い顔で下を向く。

「キャプテン・ジェニーの生死なり、海賊のアジトなり、誰かの顔なり、なんか情報は無いのか?何でもいい」

「 ・・・ それが、あの時は逃げ出すのがやっとで何も ・・・ 」

リュシアンは大変申し訳無さそうに言った。

「う~ん。まあ、しょうがないわな」

アルバートは残念そうに言う。

「・・・すいません」

リュシアンは可哀相になるぐらいシュンとする。

さっきのアルバートの発言で、あまり会話に入りたくないと思っていたエランツォだったがリュシアンに慰めの言葉をかけた。

「気にすること無いわよ。リュシアン君、そんな生きるか死ぬかの瀬戸際の時に情報収集して来いって言うほうが無茶なんだから」

「はぁ」

「でも、もし海賊のことで何か思い出すことがあれば ・・・ 」

「あっっ!!!」

突然、大声を出したかと思うとリュシアンは大急ぎで部屋を駆け出した!

エランツォとアルバートは何事かと二人で顔を見合わせているとリュシアンが戻ってきて言う。

「あ~、びっくりした。せっかくのケーキが焦げちゃうかと思った」

リュシアンは大事そうにケーキを抱えている。

そしてにこやかに「食後のデザートにしましょう」と二人に笑いかけた。

「 ・・・ 」

「 ・・・ 」


下記は私が他のブログで書いた記事です。旅行が好きで興味のある方はぜひ読んでみてください。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です