【002】美貌の少将

美貌の少将

ダイワーク海軍艦隊司令官室でステファーノ総司令官は虫歯の痛みに耐えかねているような苦い顔をしていた。

「エランツォ君、そうは言っても今の時期に海賊退治に、それだけの軍を割く訳にはいかないのだよ。」

エランツォ君と呼ばれたのは、この殺風景な部屋には不似合いな美しい女性であった。

「しかしステファーノ総司令官、やるなら今しかありません。先日の『キャプテン・ジェニー壊滅事件』で、キャプテン・ジェニーに敵対した『海の髑髏』も『海鼠』、『海賊サルー』も確実に打撃を被っています。」

二十九歳という若さで、ダイワーク海軍第七艦隊を率いるまでになった美貌の海軍少将アーヤ・エランツォは声を荒げるでもなく、ただ黙々と自分の意見を述べた。

「最近の海賊の横行は目に余るものがあります。民間船も商船も海を渡るのに海賊にお金を渡さなければいけません。」

エランツォは感情を表に出さずに黙々と続ける。

「そうしないと安全に航海も出来ないのです。」

エランツォの話を聞いたステファーノは軽くため息をつくと言う。

「しかし前に討伐隊を出した時にやられたのは我ら討伐隊の方だった。海賊は君が思っている以上に強大だ。」

感情を面に出すこと無く話をしていたエランツォの表情が初めて曇る…

「前回の討伐隊の時は海賊に情報が漏れていたとしか思えません。でなければ…」

「それは君の妄想だよ。今回の海賊討伐の提案といい、君は死んだディアス中将のことで感情的になっているとしか思えん。」

「・・・」

「とにかく今回の君の提案は却下だ!」

それを聞くとエランツォは表情一つ変えずにただ一言、「失礼します」とだけ言ってステファーノの部屋を出た。

エランツォがステファーノ司令官室を出ると、体積ではエランツォの3倍はあろうかという大男が彼女を待っていた。

ダイワーク海軍第五艦隊司令官のアルバート中将である。

「どうだった?エランツォ。」

アルバートは待ってましたとばかりに赤毛の少将に問いかける。

エランツォは無言で答える。彼女の表情を見ただけでアルバートは全てを察したようだ。

「そうか。まあ、そうだろうなぁ。」

「私は今が絶好の機会だと思うのよ。違うかしら?」

「確かに奴ら海賊は愚かにも同士討ちみたいに海賊同士戦い、そしてダメージを受けている。俺も時期は今しか無いと思うが、あのキャプテン・ジェニーがやられたということで、逆にみんなビビッちまってる。」

アルバートはため息をついた後、続けて言った。

「それにキャプテン・ジェニーを倒す為とはいえ、海の髑髏たちが同盟みたいに纏(マト)まりつつあるし・・・」

アルバートは一呼吸置き、更に続けた。

「なかなか思うようにはいかないかもな。」

赤毛の美女エランツォは、吐き捨てるように言った。

「だから一刻の猶予もならないのよ。早く海賊達を個別に撃破していかなければいけないと私は思うの。」

「まあまあ。」

アルバートはエランツォを宥(ナダ)める。

「キャプテン・ジェニーにしても本人の死体を確認していない。早く残党を叩かないと、もしかしてジェニーが生きていないとも限らない。いつまた無敵の海賊ジェニー・ファミリーが復活しないとも限らないのよ。」

ステファーノと話をしている時とは違って、エランツォはえらく感情的だ。

付き合いの長いアルバートには素直に話が出来るというところだろうか。

アルバートは困った顔をして言う。

「う~ん。せめて海賊共のアジトでも分かれば話は違うと思うんだが・・・あっ!あの坊やはどうした?」

「リュシアン君のこと?」

「そうそう。あの『キャプテン・ジェニー壊滅事件』の翌朝に全身傷だらけで、海岸にうちあげられていたあの坊やは?」

歌姫の野望

シンシアはびっくりして大声をあげる!

「え~!それじゃあ、あの『ボク』ちゃんがジェニー・ファミリーの一味かもしれないって言うの?」

ここはダイワーク港で一番華やかと言われている酒場『エスペランサ』の歌姫の控え室だが、あまり華やかとは言えない素っ頓狂な声をあげたのは、美しい衣装に身を包んだシンシアであった。

ちょっと信じにくいことではあるが、先程、海賊の噂話をした後、可愛い少年をデートへと誘っていたルチアと、その友達シンシアはこの酒場『エスペランサ』でも、一二を争う人気の歌姫だった。

2人とも今日は出番が終わって一息ついたところである。

「あんなんじゃ無敵の海賊の一味どころか、虫も殺せないってぇ。猫ちゃんと戦って、負けちゃいそうじゃない?」

いくら何でもそこまで貧弱な訳は無いだろう…

シンシアのリュシアンは猫より弱い発言は無視して、ルチアは言う。

「私もそう思うんだけど、エランツォさんはキャプテン・ジェニーの仲間だと睨んで、傷が治るまで家に引き取って情報を聞き出そうとしていたみたいよ」

「それがなんで買い物して!夕飯作ってるのよ!?挙げ句の果てには、何よ!あの“おねえさん”て言うのは!?」

シンシア鼻息荒く言う。

「なんであんたが怒ってるのよ?いや何か傷の手当てとかしているうちに、リュシアン君がエランツォさんにものすごくなついて“おねえさん”て呼んでるんだって。」

ルチアの回答に、シンシアはさらに不満げに言う。

「なにそれぇ~!絶対へ~ん。で、結局ボクちゃんはジェニー・ファミリーだったの?」

「いやそれが前に海鼠に襲われた商船の航海士で、船の漕ぎ手として海鼠の捕虜になってたんだって」

「えっ!?大変じゃん」

「それがこの前の『キャプテン・ジェニー壊滅事件』のドサクサに乗じて逃げ出してきたっていう話らしいの」

「それじゃあ、もうエランツォさんの所に居る理由無いじゃん。なんでいるのよ!?」

シンシアは訳の分からないケチをつける。

シンシアの気迫に押され、何故かルチアが困ったように言う。

「う~ん、そうなんだけどぉ、リュシアン君自身は家族とかいなくて、行くところも無いらしくて、なぁんかねぇ~」

「あ~ん。なんかもったいない~。すっごくかっこ良かったよねぇ?」

はじめにリュシアンに声をかけていたのはルチアだったが、黒髪の少年のそのあどけなさの残る美貌はシンシアにとってもドストライクだったようだ・・・

「でしょー!あんな可愛い子、町中探してもいないよー!」

「家族がいないなら、うちに来ないかなぁ?シンシアおねえさんが養ってあげるのにぃ!!」

「ずる~い。それなら私が欲しい!!」

酒場エスペランサの歌姫の控え室には、もちろんルチアとシンシア以外にも人はいるのだが、二人にとってはそんなことお構い無しだった・・・


下記は私が他のブログで書いた記事です。ピザが好きで興味のある方はぜひ読んでみてください。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です