【001】エランツォさん家の子

プロローグ

「まさかあの無敵の海賊がやられちゃうなんてさぁ。ちょっとビックリだよね?」

ここはダイワークという国の港町である。そこで若い二人の女性が噂話をしている。

「えー?でも、あれって『海の髑髏』や『海鼠』、『海賊サルー』という、三つの海賊に四方八方を囲まれての不意打ちだったんでしょう?」

二人の娘のうち髪の長い方が、もう一人の娘に言う。

「・・・いくらキャプテン・ジェニーが強いと言っても海賊三つを同時に相手しちゃあねぇ」

「何言ってんのよ!キャプテン・ジェニーは・・・あっ、リュシアン君、おはよう」

ダイワークの港でも特に賑わう繁華街の一角、この港町の娘であろう2人の女性が雑談に花咲かせていると、この辺りではちょっと珍しい黒髪と黒色の瞳を持った可愛いらしい少年が現れた。
 

手には買い物袋を下げている。どうも買い物帰りのようだ。

「あっ!ルチアさん、おはようございます」

リュシアンと呼ばれた少年はその可愛いらしい顔に満面の笑みを浮かべると、ペコリと頭を下げ、何とも丁寧な挨拶を返す。

「もう傷の具合はいいの?大丈夫なの?」

ルチアと呼ばれた女性は、少年の肩を心配そうに見つめて言う。

「はい。もうだいぶいいです。ありがとうございます」

ルチアの心配そうな口調に対して、少年は朗らかに答えた。

「今日は買い物?この後、暇なら一緒にどこかに行かない?」

心配そうに声を掛けながらも、ルチアはさりげに少年をデートに誘う。

「う~ん。でも僕、早く帰って夜御飯の支度をしなくちゃ、もうすぐおねえさんが帰ってくるし・・・」

まだ十代半ばぐらいだろうか?可愛らしい容姿をした少年は少し困り顔で答えた。

「ふ~ん。じゃあ、しょうがないか・・・」

あわよくば、少年をデートに誘おうとしたルチアとしては残念そうに言う。

ルチアが少し名残惜しそうに下を向くと黒髪の少年は慌てて、自分も残念に思っていることを伝える為、つまらなさそうな表情を作ってルチアを下から覗き込んだ。

大変、表情が豊かな少年のようで、その作った困り顔も愛嬌があり魅力的だ。

その可愛い顔でルチアを見上げる少年は、最後に相手の笑顔を誘う為に、満面の笑顔でニッコリと微笑えんだ。
 
 
その笑顔が、あまりに朗らかでルチアもつられて笑みがこぼれてしまう。哀しい気分は吹っ飛んだルチアだが、しかしデートの誘いを断られた事実は変わらない。

彼女は下唇をツンと突き出して拗ねたように言う。

「今度!リュシアン君が!暇な時に!どっか一緒に行こうね!」

まるで子供である・・・

「今週の!土曜日に!イリヤ通りにある!百年公園に!行こうね!!」

リュシアンはルチアがやったのと全く同じに下唇をツンと突き出して、拗ねた表情まで真似てルチアの誘いに返事をする。

これまで傍から見ていると、なかなかに恥ずかしい二人のやりとりを、もう一人の娘シンシアは黙って見ていたが、しかしリュシアンがルチアの唇を突き出す癖や、拗ねた時の喋り方の特徴をよく掴んでいて、この上手な物真似に笑わずにはいられなかった。

「もおー!」

いよいよもってルチアが頬をプーっと膨らませて拗ねるので、リュシアンは快活に笑いながらルチアのご機嫌を取るのであった。

最初見た時は子供っぽく見えたリュシアンだったが、この時の様子はルチアが子供っぽく、少年がとても大人っぽく見えた。

リュシアンと別れた後、二人の様子を辛抱強く見守っていたシンシアは興味津々にルチアに聞く。

「ねぇ、ねぇ。すごくかっこかっこよくない!?っていうか可愛い?当たり前だけど男の子だよねぇ?だあれ?今の子」

シンシアの質問にルチアは少しビックリして答える。

「あれぇ?シンシア、見た事なかったぁ?今の子が例のエランツォさん家の子よ」

それを聞くとシンシアはびっくりして目をまるくした。

「え~!?今のが!?今の子が、あの噂のエランツォさん家の子なの!?」

海賊の最期

船上を絶望という名の炎が渦巻いていた。

突然の襲撃だった。いったい僕は何人の敵を倒しただろうか?

僕は、僕の髪と服が、そして肌が生まれたその時から真っ赤だったかの様に敵の返り血を浴びていた。

これ以上の抵抗に、いったいなんの意味があるのだろうか?どんなにもがいても僕達に未来は無い!!

かろうじて残るのは降服か逃亡による生存のみである。しかし僕の心の弱さが降服や逃亡、そして生き残る事を望まなかった!!

呑むと陽気なロペス、誰よりも大食らいなアルハンド、女ったらしのメルーチ、昨日まで、いやついさっきまで一緒にいた仲間はもうこの世にはいないのである!!

憎き敵を道連れにしようという意思も無いままに、僕は愛用のシミターを振るい続けた。

僕の目の前には敵の屍の山が築かれていく。しかし僕は疲労という抗う(アラガウ)ことの出来ないもうひとつの敵に身体を掴まれ、自分を死へと導く敵の一撃を待つのみとなった。

 その時、僕は・・・

「あきらめるなー!!」

天をつんざく様な凄まじい声を聞いた!!!!

声の主は僕の唯一の希望!!この5年間崇拝してやまない我らが船長、キャプテン・ジェニーの声であった!!

僕は思う!船長が生きている。再起はある。望みはまだあるのである!!

僕の眼が船長を探し、大勢の敵に囲まれたその姿を発見した時、それは起こった!!

敵の放った矢が船長の右肩を貫いたかと思うと、船長の身体は糸の切れた操り人形のように力なく、船の外へと放り出されてしまったのだ!!

そして海の荒波の中へと呑み込まれてしまった!!

叫ぶことも出来ない・・・茫然自失となった僕は敵に手痛い一撃を食らうと朦朧となった意識の中、海へと飛び込んだ・・・

生まれて十七年間、僕は海を怖いと思った事はあっても、嫌いだと思ったことは一度も無かった。

しかしこの時は違った。憎くて堪らない・・・何故か!?海は僕の何もかもを呑み込んでしまったからだ。

海は、僕が五年間慣れ親しんできた愛船『エスペランサ(希望)』を呑みこみ、僕の唯一の希望『キャプテン・ジェニー』、そして最後には僕の意識をも呑み込んだ・・・

これが無敵と言う名を欲しいままにしたキャプテン・ジェニーと、ジェニー・ファミリーの最後だった・・・


下記は私が別のブログで書いた記事です。マックのハッピーセット好きな方で興味のある方はぜひ読んでみてください。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です